Letter from New York 

大学と電子メールの効用

 この数年、大学のオフィスに着くと真っ先に電子メールを読むのが私の日課になっています。日本語教育や言語学のネットワークに入っているお陰で、毎日平均15程度のメールが入ってくるので、2、3日さぼると随分たまってしまうのです。中には日本の家族や世界中の友人たちからのメールも混ざっていますが、最近は学生からのメールの数の増加が目立ちます。メッセージの種類は「昨日の講義についての質問なのですが…」というものから「風邪を引いたので今日は欠席します。すみません。」というものまで様々ですが、みんな気軽にメッセージを送ってきます。

 ここ数年で普及率がぐっと伸びているインターネットや電子メールのサービスは、アメリカの大学では日常必需品になりました。私の勤めるニューヨーク州立大学では(最近はたいていの大学がそうだと思いますが)、職員はもちろん、各学生が入学時に自動的に電子メールのアカウントを割り当てられます。キャンパスの5つのコンピューターラボには400台のコンピューターが備えられ、午前8時から夜中の2時、3時まで使用が可能です。中には24時間開いているラボもあり、徹夜でレポートを書かなくてはならない学生にとっても、非常に親切なシステムになっています。ラボ以外にも、寮や体育館など、キャンパスのあちらこちらに数台のコンピューターが設置されており、学生は空き時間にメールを読んだり送ったりできるようになっています。最近では、一日に何度もメールをチェックする学生も多いので、「あとで電話するよ」というのと同じように、 メIユll e-mail you.モ という挨拶がごく当り前のように使われるようになりました。

 1997年の統計によると、全米の大学の33%のクラスにおいて教員が何らかのかたちで電子メールのシステムを利用してます。私の学科にもリーディングの課題を学生に送ったり、短いレポートを受け付けるのにメールを利用している教員がいますが、確かに「メールで送っておいたから、今週中に読んでおくように」と言えば、重たいプリントを教室まで運ぶ手間も省けるし、レポートをメールで受け取れば、全てが1枚のディスクに入ってしまうので管理が簡単というわけです。アルファベット言語ではない日本語を教えている私の場合、「宿題をメールで」というわけにはいきませんが、簡単な質問を受け付けたり、試験の成績結果を発表するのには利用しています。

 コンピューターの使用範囲は電子メールだけにとどまりません。近年では、メdistance-learning degree programsモ と言われるコンピューターネットワークを通じての学位の取得も可能になりました。授業料を納入してコース登録をするという点においては、普通の大学と同じなのですが、コースの終了までに一度も担当の教員やクラスメートと顔を合わせることがないという点では、今までと随分違った学位取得法だと言えるでしょう。講義はオンライン上チャットルームで行われ、参加している学生はコンピューターに写る講義を読んで、質問や意見を同時にタイプすることもできます。クラスメートがタイプした意見はもちろん皆読むことができるので、実際に教室にいるように画面上でディスカッションをすることもできるのです。

 図書館の文献カタログがカードからコンピューターの画面に移されることになったとき、「人員削減のもとになるのでは」ということが懸念されていましたが、このサイバースペースにおける新しい教育システムが誕生した時に、同じ様な心配をした教員も少なくないでしょう。けれど実際には、教育の場が教室からコンピュータの画面に移ったからといって、教員一人が担当できる学生の数には限りがあるし、この方法で全ての教科を教えられるわけではないので、我々教員がコンピューターに職を奪われる心配は今のところなさそうです。

 心配がないとわかったところで見つめてみると、"distance-learning" のシステムにはさまざまな利点があります。先ず、身体が不自由で登校が困難な学生や、今まで職業上、又は地理的な事情で大学教育をあきらめなければならなかった学生にとっては、このコンピューター大学は待ちに待った解決策の一つでしょう。また、講義に関する学生の意見は文字になって画面に現われるので、教員が学生一人一人の意見や能力を把握しやすいという利点もあります。学生も、教室の中で大勢の学生に囲まれているという環境とは違って、一番後ろの席に座ってノートの端に落書きをしているわけにはいきません。(これは学生諸君にとっては必ずしも利点ではないかも?)

 もちろんこのシステムにも欠点がないとは言えません。特に、教科を超えた部分での人間的なふれあいは、画面上で味わえるものではありません。専門課程の中での教員や先輩、同級生とのふれあいによる思想、心情の形成においては、何千年も前から今日まで引き継がれているトラディショナルな教育システムに勝るものはないでしょう。

 しかし、コンピューターネットワークのシステムが様々な過去の問題を解決するのに貢献できることは疑いもない事実です。このシステムが特別な事情を持つ学生だけでなく、一般の学生にも広く利用される日は遠くないでしょう。メdistance-learningモ の一般教育への導入は21世紀のアメリカの教育システムに大きな変化をもたらすことでしょう。        (佐藤奈津)