Lateral Thinking

怠け者の読書

 趣味は?と聞かれて苦し紛れに「読書」と答えてしまうことがよくある。若い頃は、それが一種の格好の付け方だった。だが本音をいうと、読書が実は、最大の苦痛でもある。始終、同じ本屋に入ることはそれほど苦痛ではなくなったが、買った本を読み終わらないうちに、新しい本を買い、「未読」の本が机の上に積み重なっていくのは、正直、苦痛である。

最近、ある本を手に入れ、久しぶりでほっとした気分を味わった。題して『眺めたり触ったり』、なまめかしい色の装丁である。早川書房からでた文・青山南、絵・阿部真理子氏とある。机の上に置いておいたら、同僚がにやにや笑っている。確かにそう思われても仕方ない表情をしている。が、実は The Feel of Reading という副題がついた立派な読書エッセイである。

 その中に「本もね、長く積んでおくと醗酵していい味がでる…ときどきは気がついて、手にとって眺める。ぱらぱらと読んだりもする。そうしているうちに…固い心がすこしずつ解けていく」という言葉にぶつかった。

 お酒も本も、腐敗するぎりぎりまで醸したものが最高なのかもしれない。

 さんざん悩んだあげく、思い切って電子ブックプレーヤーを購入した。研究社の『リーダーズ英和辞典』とその増補版『リーダーズ・プラス』、それに『新和英中辞典』がまとめて入った電子ブックがソニー社からでたからだ。

 現代世界を英語で知るのにきわめて便利なこの辞典については、小林孝信先生が当ニューズレターの第5号で要領よく紹介して下さっているので略するが、てのひらにのる重さのプレーヤーに全文収まっており、英文の紙誌を読む際に、こんなに気軽に利用できるとは夢にも思わなかった。

 私は左利きなので、左側にこれを置き、右側に読む雑誌を広げ、わからない単語を片端から左手で叩いて調べていく。高校生でも知っていなければならない単語でも、恥ずかしげもなく確かめていくと、いままでには考えられないほど読むスピードがあがる。若いころにこの便利なハードがあったら、いまほど英語が苦手になっていなかったことだろう。

 オタクになりたくないから、電子ブックはこれだけと誓っていたのだが、日本語の紙誌を読むために、三省堂の『大辞林』も試したくなった。便利である。というより、漢字がわからないときしか引かなかった国語辞典だが、これを左手に置いてどんどん引いていくと、いかに日本語に無知だったかを嫌というほど知らされた。ただひとつの悩みは、乾電池を使って利用するときは、瞬く間に切れてしまうことである。小さいながら、すごいエネルギーを使ってくれているのだろう。Viva 電子ブック!

 長い間、国際問題を追いかけながら、外国の新聞を読むのが苦痛だった。でも当学会でインターネットに入ってもらってから、ほぼ毎日 CNN の World News か USA TODAYを覗いて見る習慣がついた。とにかくインターネットの性格上、ひとつひとつのニュースの短いことが気に入った。

 CNN の World News に Americas という項目ができたことを発見した。International Herald Tribune, The Economist に続いて、ここでも「アメリカス」という発想が実現していた。

 早速、チリでの第2回南北アメリカ首脳会議(英語では The Second Summit of the Americas) を呼び出したら、唯一不参加のキューバが大問題になっている。「キューバ」に移したら、サトウキビの不作が深刻。関連の「エルニーニョ現象」を叩いたら、最新情報がある。安い電話代だけでこんなにいろいろ知らされていいのか、余計なことが気にかかってくる。  

(北詰洋一)