Letter from New York

米国人は訴えるのがお好き!

 アメリカの大学では、教員はコースの始めにその学期の予定や採点基準を細かく記したシラバス(Syllabus=コース概要)を学生に渡すことになっています。これを見れば、学期中の各講義のテーマやレポートの課題も一目で分かるという大変便利なシステムですが、実際にこれを作る側になって、もう一つの役割を知りました。

 新採用の教員のためのオリエンテーションでもこのシラバスの重要性が随分強調されますが、どうも、「あいまいな採点基準」のせいで教員が学生に訴えられたケースが過去にいくつもあるらしいのです。悪い成績を出す度に訴えられたのではたまりません。それで、詳細にわたってあらゆるルールが書かれたシラバスは、いわば学生と教員の間に交わされた「契約書」、教員にとってある種の「保険」としても役立つのです。ちなみに今学期の私のシラバスはスケジュールを含めて7ページ。1000点満点の内、出席率は130点で、欠席は2回までペナルティーなし、その後は1回休む毎に2.5点マイナス・・・という具合に、非常に詳しく点数配分が記されています。

 こういったことにも見られるように、アメリカ人は「小さいことでも訴えてみる」傾向が強いように思います。ここ数年の間でも、自分でコーヒーをこぼして火傷をしておきながら、「カップのふたに気を付けるように注意書きがしてなかったのが悪い」とマクドナルドを相手に賠償金を請求した人(なんと、彼女が裁判に勝ったのです)、小さい子供を家に一人で残しておきながら「子供がテレビマンガのまねをして家に火を付けた」とテレビ局を訴えた母親の話など、それこそ漫画のような裁判のケースの話しをいくつも聞きました。心臓病を起こした老人を助けようと心臓マッサージを施した際にうっかり肋骨を折ってしまった人が、助けた老人に訴えられたという話まであります。アメリカで弁護士が多いことは有名な話ですが(人口15万人のビンガムトンには弁護士が700人以上)、こうなんでも訴えられたのでは弁護士の需要も上がるわけです。

 裁判沙汰と言えば、最近のおもしろい(?)ニュースをご紹介しましょう。6歳の男の子が、隣の席の可愛い女の子にキスをしました。ここまでは、単なるキュートなお話なのですが、この先がタイヘン。この男の子、肝心なことを忘れていたのです。そう、「本人の承諾」を得ぬまま、彼女にキスをしてしまったのです。それを聞いてカンカンに怒った母親が「セクハラ」だと言って、男の子を訴えたという・・・。幸い、あまりにもばかばかしい話だと、起訴には至りませんでした。

 もう一つは、最近テレビでさかんに流されていたニュースです。サウスカロライナ州で12歳の女の子が、お弁当を食べるために学校にナイフを持っていったところ、「校内で武器発見」ということで、大騒ぎ。校長室から警察に連絡が入り、女の子は逮捕されて警察署、そして裁判所に連行されました。事情を説明した後にも、とにかく学校に「武器」を持ち込むとは不届きせんばんというわけで、裁判官が3日間の自宅謹慎を言い渡したそうです。このニュースを聞いた在米日本人のお母さん方が、「やっぱりお弁当はおにぎりに限るわ」と言ったとか言わないとか・・・。

(佐藤奈津)