Lateral thinking

ハーフからダブルへ

 さる2月20日夕、関西アメリカン・センターでTV ドキュメンタリー作品「ダブルス」(Doubles: Japan and Americaユs Intercultural Childeren ) を観賞、その後製作者のRegge Life 氏を交えて日米間の混血児について話し合った。

 これまで日本では混血児のことをハーフと呼ぶことが多かったが、最近それに代わって「ダブル」という和製英語が生まれ広がりつつあるという。Life氏は、なぜハーフからダブルへ変わったのかをテーマにドキュメンタリー作品を作り上げた。 作品の中で混血児たちが繰り返し涙ながらに証言しているように、「好きでアイノコと呼ばれるように生まれたわけでもないのに、なぜハーフとさげすまれるのか」(若い女性)「日本人からは日本人として見られないし、アメリカ人からは黒人としてしか見られない」(黒人との混血児)という不満と不安で一杯だ。

 ニューヨーク出身の黒人映像プロデューサーであるLife氏は、文化庁の芸術家交換プログラムで来日、山田洋次監督の「寅さん」シリーズのスタッフとして映画作りに参加。1992年に、日本に住むAfrican American の暮らしを取材し、その生き様をつづったドキュメンタリー「奮闘と成功―アフリカン・アメリカンの日本体験」を製作。その取材、撮影の過程で「ダブル」という言葉を知り、今回の作品誕生となる。

 「ハーフではなくダブル。彼らは二つの文化を半分づつ持っているのではなく、2倍持っているのだ」と述べる Life 氏は、その後ダブルという言葉に喜びと自信を感じる混血児たちを次々発見していく。この映写会にも混血に悩みを抱えた若者が多くきており、「ハーフという一種の二股文化は居心地が悪かった」「混血に誇りを持てるようになった」と、Life氏の製作意図に共鳴している。

 しかし混血児をめぐる問題は、言葉を換えるだけで解決できるほど容易ではない。「ハーフとダブルに違いを感じない」人もいたし、ハーフそのものの持つ動物的響きの不安が去るわけではないという声も出た。half-bred は「混種の」「雑種の」「雑種」を意味し、half-breed 「混血児:とくに白人とインディアン(ネイティブ・アメリカン)の合いの子を意味し、ときに敵意、軽蔑の意をこめて用いられる」と辞書にある。政治用語で half-breed といえば「信念の欠けた政党員」、half-truth は「(人を騙したり、非難するための)半面だけの真理しか含まない言葉」を指す。

 だから、人々に混血にたいする特別の意識をもつ人々がいる限り、「ダブルがまた新しい差別語になるのではないか」という心配もでてくる。double agent(二重スパイ)double character(二重人格)double edged (両刃の議論の)double life (二重生活)と、double 自身の意味にも微妙な要素がある。

 いま世界は Multiculturalism(文化多元主義)に向かいつつあるといわれる。Assimilationalism(同化主義)とPluralculturalism(複数文化主義)の狭間で、複数の文化の独自性を堅持しながら、全体としての一体性を維持しようとする健全な意味での Multiculturalism の実現と強化には、Intercultural Children が重要な存在であろう。そして Multiculturalism の世界では、文化を半分(ハーフ)づつではなく、2倍(ダブル)もつ発想はきわめて重要ではないだろうか。 Life 氏の作品の中でも、アメリカに住む混血児がのびのび生活しているのに比べ、日本に住む人たちの緊張感が気にかかる。   

                                    (北詰洋一)