あとがき

 「世紀末」という言葉が人口に膾炙(かいしゃ)している。物事をあまり悲観的に
とらえて格好を付けているようで好きな言葉ではない。人為的な時間にとらわれすぎ
ており、人間社会をはかる物差しとしては不自然に感じる。しかし現実をよく見ると、
明らかに歴史の区切りとして「世紀末」は都合のいい言葉である。
  では二〇世紀の世界は、どんな時代だったのだろうか。一言でいうと、「近代」の
合理主義の絶対性があらゆる分野で崩れていった「相対性の時代」(ポール・ジョン
ソン)という言葉が一番わかりやすい。それを示す一番の象徴は、アインシュタイン
の相対性原理の登場であり、言い換えれば、何を信じればいいのか分からない混沌
(カオス)の時代に入っている。
  その中で生き残っているのは、民主主義の原則であり、唯一の超大国としてその原
則を維持して政治、経済、技術の分野で世界に「君臨」しているかに見える米国の存
在である。しかし,ここでいう米国は「欧米」という明治時代以来何の疑問も感じな
いで使ってきた、欧州と同じ範疇に入ると考えてきた国のことである。
  しかし相対主義の時代に米国の絶対的存在がそのまま二一世紀に永続するはずがな
い。民主主義の原則を維持しようとする限り、米国の容貌は変わってくる。南北アメ
リカが接近してくれば、そこに新しい世界が生まれてくるように思う。それに注目し
たのがアメリカスという発想である。これは従来の米国の側から南北をひとつに纏め
ようという考え方ではなく、今回は周辺地域から、米国を変わらせて新しい世界をつ
くろうとする動きである。そこに焦点を合わせて本書を纏めてみた。執筆者各自のア
メリカスという発想についての考え方にはかなりの違いがある。ただ少なくとも追求
してみる価値があるという点では一致していると確信している。
  最後に、南北アメリカ研究の諸先輩もこの発想に共感してくださり、ご執筆、ご協
力いただいたことを心から感謝致します。この考え方には多くの問題点があることは
十分心得ており、ご専門の識者の方々から厳しい叱責と指摘をいただくことを覚悟し
ております。
 なお本書の出版にあたっては、天理大学学術図書出版助成金(平成11年度)を受け
ました。関西の老舗出版社である創元社では、本書刊行はかなりの冒険と思われたに
違いないが、矢部敬一社長・猪口教行編集部長は、こちらの意を積極的汲んで様々な
助言をくださり、天理大学アメリカス学会として初めての、素晴らしい学術書をつく
ってくださったことを心から感謝致します。              
                                2000年2月18日
                              北詰洋一