国 際 文 化 学 部 懇 話 会 −第1回概要−



ユーリヤ・ヴィクトロヴナ・アルグジャーエヴァ女史:「旧満州におけるロシア人」

◆概 要
 日 時: 2001年11月1日
 場 所: 天理大学研究棟3階第2会議室
 通 訳: 五十嵐徳子(ロシア学科講師)
 解 説: 左近 毅(本学非常勤講師、大阪市立大学名誉教授)
 司 会: 片倉充造(イスパニア学科教授),阪本秀昭(ロシア学科教授)
 主 催: 天理大学国際文化学部


◆報告内容
 1. 19世紀後半から20世紀初頭のスラヴ人による極東の殖民
 2. 沿海地方の旧教徒(分離派)による殖民
 3. 旧満州への移住
 4. 移住者の基本的生業(農業、牧畜、副業)
 5. 旧教徒(分離派)の農村共同体
 6. 家族、生活、女性の地位、子供たち
 7. 物質生活(住居、衣服、食物)
 8. 旧教徒(分離派)の旧満州、中国からの海外移住






◆アルグジャーエヴァ・ユーリア・ヴィクトロヴナ女史略歴

 1936年11月2日 ハバロフスク市に生まれる
 1954年 ハバロフスク教育大学歴史学部入学
 1956年 極東大学(在ウラジヴォストーク)に編入学
 1959年 同上卒業
 1959年〜1963年 ソ連科学アカデミー極東支部(在ウラジヴォストーク)にて勤務
 1963年〜1967年 ロシア科学アカデミー民族学・人類学研究所大学院(在モスクワ)にて学ぶ
 1968年 歴史学修士号を受ける
 1967年以後現在に至るまでロシア科学アカデミー極東支部極東諸民族歴史学・考古学・民族誌学研究所に勤務。現在スラヴ学センター指導員、上級学術研究員
 2001年7月 初来日。北海道大学スラヴ研究センター夏期国際シンポジウムにて研究発表


◆主要著書・論文
 著書
 1 『バイカル・アムール地域の青年の労働と生活』モスクワ、1988年
 2 『沿海地方におけるウクライナ人の農民家族(19世紀80年代〜20世紀初頭)』モスクワ、1993年
 3 『ロシア極東南部地域の東スラブ人農民家族(19世紀50年代〜20世紀初頭)』モスクワ、1997年
 4 『ロシア極東における古儀式派』モスクワ、2000年

 論文
 1 「沿海州ウクライナ住民の結構儀礼」『極東諸民族の文化における民族的伝統』ウラジヴォストーク、1987年
 2 「沿海州古儀式派の家庭と生活(19世紀末〜20世紀初頭)」『極東の文化 19世紀〜20世紀』ウラジヴォストーク、1992年
 3 「アムール河流域のモロカン派教徒」『アジア東部地域の伝統文化:考古学。文化人類学』ブラゴヴェーシェンスク、1995年
 4 「ロシア極東南部地域のロシア人のエスノ・ヒストリー」『ロシア科学アカデミー極東支部通報』1999年、bS

 日本学術振興会の外国人招聘研究者(短期)事業による招待(ID番号S−01173)
  滞在日程: 2001年10月20日から11月3日の2週間
  受け入れ研究者: 天理大学 国際文化学部 教授 阪本秀昭


◆アルグジャーエヴァ・ユーリア・ヴィクトロヴナ女史の研究業績について  文責:阪本秀昭

 アルグジャーエヴァ女史の研究は、近年これまでの蓄積がまとめられて著書として相次いで発表されるに及んで、国際的にも 注目されるようになってきた。女史は一方では民族誌学の研究者として、フィールドワークを中心に研究を続けてきたが、 同時に歴史学的テーマと観点も維持し、これら二つの学問領域を統合した形で19世紀後半から20世紀初頭にかけての農村社会 における伝統の形成およびその変容を追及している。このような観点にたった研究は1960年代からシベリアの科学都市 ノヴォシビルスクの研究者たちによって先鞭がつけられて以来、西シベリアは言うに及ばず、ウラル、アルタイ、東シベリア、 北ロシア地域において活発に展開され、ソヴェト・ロシアにおける農村史研究の大きな潮流となっている。またその文化人類学的 関心と歴史学の結合の試みは国際的にも注目されている。最近のロシアではこの潮流の中にもさまざまな異なった傾向があらわれる ようになり、分化の様相を呈している。
 その中にあってアルグジャーエヴァ女史はシベリア農村史研究にはじめて民族的観点を導入し、ロシア人ばかりでなくウクライナ人、 ベラルーシ人の移住と伝統文化の形成についてそれらを独自のものとして扱い、これまでの研究に新しい動向をもたらした。これは 19世紀後半という比較的新しい時期に開発が進められた極東地方を研究対象にしたことからくる必然的帰結でもあった。彼女は ロシア正教の異端派である古儀式派や分離派による殖民と地方的伝統の形成過程の研究もすすめ、極東地方の開発における彼らの 果たした大きな役割を明らかにするとともに、独自の宗教的信条からくる彼らの極めて勤勉な勤労態度と労働倫理の形成にも注意を 払っている。極東地方の分離派については以前からロシアの旅行記や紀行文学において注目されていたが、これを本格的な研究対象 として取り上げ、フィールドワークの積み重ねによる実証的データを提供した実績は、他の追随を全く許さない独自の学問的業績である と言うことができよう。女史の学問上の貢献はこれにとどまらず、農村社会を農民家族のあり方を中心にとらえなおした点にも 求められる。家族史に対する世界的な関心の高まりの中にあって、家庭内協業、家族儀礼の伝統の形成を中心に各地域、各民族の 独自性を明らかにした点は高く評価されるべきであろう。
 これにとどまらず、彼女は旧満州への正教徒や分離派教徒の移住、彼らと中国人との接触と交流に関しても関心を広げ、国際的な移住 の問題も視野に入れた発言を行っている点は、われわれ日本人にとっても注目すべき事柄である。かつて旧満州において、ロシア人 分離派が極めて過酷な条件下でも優れた農業牧畜経営の実績をあげたことが日本側によって喧伝され、満蒙開拓の呼びかけの材料に された事実を想起しないわけにはいかない。この意味でも女史の研究は日本の近代史とも深いかかわりをもっている。女史を初めて 関西に招き、極東アジアの歴史文化と宗教に関心のある天理大学をはじめとする研究者・学生の方々と交流していただく意義は ここにある。


◆アルグジャーエヴァ女史研究報告日程

 日 時: 2001年10月29日(月)4時半より
 場 所: おやさと研究所会議室(天理大学研究棟一階東側)
 題 目: 「極東におけるロシア正教分離派について」
 通 訳: 山下丈夫氏(天理大学非常勤講師)
 解 説: 阪本秀昭(天理大学国際文化学部教授)
 主 催: 天理大学おやさと研究所




国際文化学部懇話会 一覧へ

国際文化学部 HOME